台湾で妊娠がわかったとき、多くの日本人がまず戸惑うのは、費用でも言葉でもありません。「勝手が違う」という感覚そのものです。

健診のたびに次回の日付だけを言われて全体の予定表がもらえない。助産院を探しても見つからない。産後は一か月どこかに「入る」らしい。ひとつひとつは小さなことでも、積み重なると、自分がちゃんと理解できているのか不安になります。

そこで、公的資料・病院の公式サイト・統計・学術文献・在台コミュニティを横断して調べ、どこまで確認できたかを一件ずつ明示してまとめました。確認できなかったことも、そのまま書いています。

確認済 機関の公式サイトに、産科が対象として明記されているもの。

窓口のみ 国際医療窓口や日本語ページはあるが、産科が対象かは確認できなかったもの。

体験談 個人の経験談・メディア報道によるもの。年を明記。要確認。

終了 他所ではまだ引用されているが、現在は行われていないもの。

未確認 調べたが、あるともないとも確認できなかったもの。

最初にお伝えしたいこと — 台湾に「助産所」はありません

日本の感覚で探すと、見つかりません

日本では、助産師が独立開業し、正常分娩だけを扱う助産所(助産院)という選択肢があります。台湾には、これに相当する制度が実質的に存在しません

助産師が介助するお産は、台湾全体の1%未満です。実際に開業している助産師は全国で約 300〜500 人、養成校は 2 校のみ。2024 年 5 月時点で健保契約の助産所は全国に 16 か所ありますが、そのほとんどが個人経営の小規模施設で、対応言語は中国語です。

これは「探し方が悪い」のではありません。台湾では 1972 年に医師による分娩介助が助産師を上回り、1992 年には病院の助産師定員そのものが廃止されました。2016 年時点で医師による分娩介助は 99.87%。半世紀かけて、ひとつの職業がほぼ消えたのです。

つまり台湾で出産するということは、多くの場合病院か婦人科クリニックで産むということです。そのうえで、どういうお産にしたいかを医療者と交渉していく——それが台湾での現実的な進め方になります。

日本と違う七つのこと

日本台湾
無痛分娩2024 年で 13.8%(2018 年は 5.2%)20〜30%陣痛が始まってからでも希望できる。健保給付外で自費(約 8,000〜10,000 台湾ドル)
帝王切開約 2 割36〜38%(2021 年 37.64%)。吉日を選んで手術日を決める文化もある
会陰切開病院での実施率 約 70〜73.4%(2023 年、市民団体調査)
入院期間約 5〜6 日健保給付は経腟分娩 3 日・帝王切開 5 日。しかも「入院日」から起算するため、陣痛待ちが長いと産後の日数が削られる
産後里帰り出産。家族の中で完結月子中心(産後ケアセンター)に約 1 か月滞在。商業化・ホテル化している
立ち会い立会い分娩には制限が多い夫が休みを取って妻と一緒に入院し、ともに過ごすのが一般的
羊水検査一般的ではない34 歳以上には広く勧められる
多くの日本人が同じところで不安になります

台湾の医師は、「次はいつ来てください」としか言いません。日本のように妊娠全体の健診スケジュール表を渡す習慣がないためです。

これは軽く扱われているわけでも、説明を省かれているわけでもなく、単に慣習が違うだけです。全体の流れを知りたいときは、こちらから聞けば教えてくれます。「全部で何回くらい、いつ頃、何をしますか」と一度尋ねてみてください。

健康保険(健保)にいつ入れるか

ここが最も重要で、しかも誤解が多いところです。加入資格は在留期間の長さではなく、在留資格の種類で決まります。

状況加入できる時期
就労している(実習・研修を含む)待機期間なし。勤務初日から雇用主が加入手続きを行う
就労していない(配偶者ビザ、投資、その他の居留)台湾に 6 か月居住してから

確認済 健保署サイトにて 2026 年 8 月確認。6 か月の計算は、継続して 6 か月、または出国が 1 回・30 日以内であれば出国日数を差し引いて通算します。

加入後は妊婦健診も分娩も給付対象です。さらに全民健康保険法第 48 条により、分娩は自己負担が免除されます。実際にお支払いになるのは自費項目——無痛分娩、個室(1 泊 3,000 台湾ドル前後)、医学的適応のない選択的帝王切開の差額(2〜3 万台湾ドル程度)などです。

ご注意いただきたいのは、配偶者ビザで来台されたばかりの方です。妊娠初期に台湾へいらした場合、最初の 6 か月間の健診は自費になります。

妊婦健診

2021 年 7 月から、公費による妊婦健診が 10 回から 14 回に増えました。妊娠糖尿病スクリーニング、貧血検査、通常超音波 2 回(合計 3 回)が追加されています。確認済

対象になるかどうかは健保の加入状況で決まり、国籍は問われません

初回健診時に母子手帳にあたる冊子が渡されます。英語・ベトナム語・インドネシア語・タイ語・クメール語版はありますが、日本語版は確認できませんでした未確認

日本語が通じるところ

まず知っておくべき公式資料

日本台湾交流協会台北事務所が毎年「日本語の通じる主なクリニック」の医療機関リストを公開しています。最も信頼できる出発点です。

ただし重要な限界があります。このリストは病院単位で日本語窓口の有無を示すもので、産婦人科に日本語対応があるかまでは記載されていません。結局は、一件ずつ電話して確認する必要があります。

産科で日本語対応を明示しているところ

禾馨 Dianthus/なでしこ医療窓口のみ

日本語ページに「医療通訳サービス(日本語と英語)を提供しています」と明記。台北・台中いずれも日本語 LINE の窓口があります。

体験談 2021 実際に利用された方の記録によると、通訳を兼ねる看護師が受付・診察・会計・次回予約まで同行し、日本語での診療記録(帰国後の引き継ぎ用)も作成可能、出産時にも通訳が立ち会ったとのことです。費用は 1 回 2,000 台湾ドル前後+通訳費。

さらに、24 時間対応の LDR 分娩室と水中出産用の専用プール(深さ約 60cm)を備え、妊娠 32〜36 週に水中出産の相談を受け付けています。今回の調査で、日本語・英語・低介入のお産という三つの面すべてで実績が確認できた唯一の機関でした。

日本語ページ

台安医院(台北・松山区)窓口のみ

1989 年設立の国際優先ケアセンター(IPCC)が中国語・英語・日本語に対応。日本語の産婦人科ページがあり、台北で日本人患者数が最も多いとされます。受付同行、検査・薬局の専任スタッフ、保険の直接請求にも対応。

ただし国際特診は健保が使えず、外来は 1,700 台湾ドル程度からの自費となります。

02-2776-2654 · 日本語産婦人科ページ

台北 101 診所(日系クリニック)窓口のみ

日本人医師が運営。産科・婦人科は予約制で、主に紹介の窓口としての機能です。

サイト

このほか、日本語ページを持つ国際医療センターとして台湾大学病院・台北栄民総医院・台北医学大学附設医院・馬偕記念医院・新光医院・国泰総合医院があります。窓口のみ いずれも産科が対象かは確認できていません。

体験談 在台日本人向け情報誌『台北ジャピオン』の医療リストには、木生婦幼診所・康心美容婦人科(日本人女性の相談員あり)・愛群婦産科なども掲載されています。

電話で相談できるところ

1990 外国人在台生活相談ホットライン(移民署)は、中国語・英語・日本語が 24 時間 365 日対応です。海外からは +886-800-001990。医療、健保、育児、福祉、法律まで幅広く相談でき、必要に応じて役所への取り次ぎもしてもらえます。

ただしこれは「生活相談」であり、臨床通訳ではありません。分娩室まで来てくれるわけではない、という点はご承知おきください。

在台日本人のコミュニティ

台湾日本人会(台北市中正区襄陽路 9 号)の婦人部会に「元気っ子ベビークラブ」があり、毎週金曜に会館附設の児童室で集まりが開かれています。今回確認できた範囲では、これが唯一の、組織として継続運営されている日本語の育児交流の場です。高雄支部もあります。

調査で確認できた空白

正直に申し上げます。妊娠中から出産までの段階を支える、組織化された日本語のサポートは、台湾には見当たりませんでした。

元気っ子ベビークラブは赤ちゃんが生まれた後の集まりです。妊娠期・出産期にあたる日本語の互助の場は、今回の調査では見つかりませんでした。未確認

また、台湾で日本語に対応するドゥーラ(出産付き添い)も、公開情報の範囲では一人も見つかりませんでした。日本語で検索しても、日本国内の団体に行き着くばかりです。

低介入のお産を望まれる場合

訂正:以前の記事にある制度は、もう終わっています

終了 台湾の「友善多元温柔生産(やさしい多様なお産)モデル病院試行計画」と、参加 6 病院の名前を挙げた記事が今も出回っています。この計画は 2014 年 10 月に始まり、約半年で終了しました。終了時点で残っていたのは 1 病院のみです。

その一覧を持って受付に行かれても、対応してもらえません。

2026 年 8 月時点で確認できたのは、以下です。

台北市立聯合医院 和平婦幼院区窓口のみ

台北市の母子専門病院として、医師と助産師の協働ケアを実施。2025 年 4 月に同院初の家族立ち会い水中出産を実施しました(第 3 子・経産婦、夫と 5 歳・4 歳のお子さんが分娩室に同席、長男が臍帯を切断)。

「初例」であり、常時提供のサービスではありません。現在も受け付けているか、条件があるかは要確認です。

02-2391-6470 · 台北市福州街 12 号

台中慈済医院窓口のみ

バースプラン、共同意思決定、臍帯遅延結紮、会陰マッサージと骨盤リラクゼーション、パートナーの参加を掲げる協働ケアモデル。2026 年 3 月から隔週土曜に助産師相談外来が始まりました。今回見つかった中で最も新しい動きです。

水中出産について確認できたのは、上記の台北市立聯合医院和平婦幼院区と、禾馨民権婦幼診所の二か所のみです。台湾には水中出産を扱う施設の公的な一覧が存在しません。中国語で見かける「水中出産の紹介」記事の多くは啓発・広告目的で、その機関が実施しているとは限りません

産後 — 月子中心という仕組み

産後護理之家(通称・月子中心)は、法律に基づいて設置され地方衛生局の管理を受ける看護機関です。健保は使えません

台湾では入院が 3 日程度と短く、そのまま月子中心に移って約 1 か月過ごすのが一般的です。日本の「里帰り出産」にあたる文化はなく、代わりにこの仕組みが商業的に発達しました。母子同室にするか新生児室に預けるかは施設や希望によります。

料金の目安(2024〜2025 年の業界資料、公的統計ではありません):北部は 1 泊 4,800〜8,000 台湾ドル、中部 3,500〜7,000、南部 3,000〜6,500、高級施設は 8,000〜12,000 以上。30 日で概ね 9 万〜42 万台湾ドルです。妊娠 5〜6 か月頃までの予約をお勧めします。

窓口のみ 禾馨の産後護理之家(士林・桃園)は、日本語と英語の対応を公式サイトに明記している数少ない施設です。1 泊 10,900 台湾ドル前後から。

出産後の手続き

ご両親のどちらかが台湾籍の場合、お子さんは台湾籍を取得し、60 日以内に戸政事務所で出生登記を行います。

ご両親とも外国籍の場合は、まったく別の、しかもより期限の短い手続きになります。

手続き期限備考
外僑居留証(ARC)
居住地の移民署サービスステーション
出生の翌日から 30 日以内申請書、2 インチ写真、パスポート(申請中の場合はその証明)、出生証明、親の ARC、住所証明、手数料
健康保険出生日から居留証明書類があれば、台湾籍の新生児と同じく出生日から加入。「数か月待つ」という情報は古いものです
日本の出生届・旅券
日本台湾交流協会
出生から 3 か月以内(国籍留保の届出期限)通常、医療機関が発行した中国語・英語併記の出生証明が必要
出産前に確認しておいてください

ARC は30 日、日本側の国籍留保は3 か月。どちらも産後の疲れた身体で調べ始めるには短すぎます。

そして両方の入口が「出生証明」です。出生証明は実際に分娩を介助した医療機関が発行するものなので、どこで産むかを決めた時点で、証明書の発行についても確認しておかれることをお勧めします。中国語・英語併記が必要かどうかも、日本台湾交流協会に先に聞いておくと安心です。

手続きの詳細は年により変わります。必ず移民署と日本台湾交流協会にご自身で確認してください。

確認できなかったこと

このガイドの姿勢として、正直に記しておきます。

  • 母子手帳の日本語版の有無
  • 妊娠期・出産期の組織化された日本語互助の場
  • 台湾で日本語に対応するドゥーラ
  • 健保なしの帝王切開費用の公的な基準
  • ドゥーラが分娩室に入れるかどうかの統一規定(中央法規は見つからず、病院ごとの判断のようです。早めにご確認を)
  • 台北以外の日本語対応の産後ケア施設
  • 無介助分娩の割合として報じられている数値(メディア経由の転載で、厚生労働省の原統計にあたって確認できていません

最後に

台湾での出産は、日本と違います。良い悪いではなく、違うのです。

無痛分娩は選びやすく、夫はずっとそばにいられ、産後は一か月しっかり休める。その一方で、助産院という選択肢はなく、医療介入は日本より多く、健診の全体像は自分から聞かないと見えてきません。

もし何かひとつだけお伝えできるとしたら、これです。お産の日にあなたのそばにいて、言葉も仕組みもわかっていて、必要なときにあなたの代わりに口を開いてくれる人を、早めに決めておいてください。

それはご主人でも、先に台湾で産んだお友達でも、信頼できる看護師さんでもかまいません。誰であるかより、陣痛が始まる前に決まっていることのほうが大切です。

ここに書いたそれ以外のことは、すべて段取りです。その一点だけが、当日の心もちを本当に変えます。

著者について — Milliya(ミリヤ)は、ドゥーラ(出産付き添い)、独立出産コンサルタント、EmbodyBirth™ 認定講師、女性のための統合コーチです。中国語・英語・日本語で活動しています。二度のやさしいお産を経験し(第一子はドイツ・ブレーメン、第二子は台湾の自宅)、台北(北投)と日本(神奈川県逗子)、そしてオンラインで活動しています。活動について →
2026 年 8 月 8 日 調査・公開 · 本ページは調査時点のスナップショットであり、最新の一覧表ではありません。

主な出典

免責事項 本ガイドは情報提供を目的としたものであり、医療上・法律上の助言を構成するものではありません。医師、助産師、医療機関、健康保険署、移民署、日本台湾交流協会への直接のご確認に代わるものではありません。制度・費用・サービス内容は変更されることがあり、地域や施設によっても異なります。記載内容はすべて 2026 年 8 月時点で確認できた範囲のものです。実際に頼りにされる前に、必ずご自身でご確認ください。

よくあるご質問

台湾に助産所(助産院)はありますか?

日本のような制度は実質的にありません。助産師が介助するお産は台湾全体の 1%未満です。2024 年 5 月時点で健保契約の助産所は全国 16 か所ですが、ほとんどが個人経営の小規模施設で、対応言語は中国語です。

健保にはいつから入れますか?

在留資格の種類によります。就労している場合は勤務初日から、待機期間はありません。就労していない場合(配偶者ビザなど)は台湾に 6 か月居住してからです。加入後は健診も分娩も給付対象で、分娩は自己負担が免除されます。

日本語が通じる産婦人科はありますか?

あります。日本台湾交流協会が医療機関リストを公開していますが、産科の日本語対応までは記載されていません。産科で明確に日本語対応を掲げているのは禾馨(なでしこ医療)と台安医院です。禾馨では通訳を兼ねる看護師が全行程に同行し、出産時にも立ち会ったという体験談があります(2021 年)。

台湾の医療介入は日本より多いのですか?

帝王切開率は台湾 36〜38%に対し日本は約 2 割、会陰切開は台湾の病院で約 70〜73.4%(2023 年調査)と報告されています。一方、無痛分娩は台湾のほうが選びやすく、陣痛開始後でも希望できます。どちらが良いというより、希望があるなら早めに、文書で、事前に合意しておくことが大切です。

両親とも外国籍の場合、赤ちゃんの手続きは?

戸籍登記は行わず、出生の翌日から 30 日以内に移民署で外僑居留証を申請します。あわせて日本側の出生届・国籍留保(3 か月以内)も必要です。どちらも出生証明が起点になるため、出産前から準備を始めてください。

日本語で相談できる人はいますか?

私がおります。中国語・英語・日本語で、台北と逗子、そしてオンラインで活動しています。台湾で日本語に対応するドゥーラは、今回の調査では他に見つかりませんでした。おひとりで抱えずに、まずはお話をお聞かせください。ご連絡はこちら →

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